Interview01
THE GROWTHの原点はANDPAD
THE GROWTHの「支援先とあらためてお話」。第1回目のゲストは株式会社ANDPADの稲田武夫社長です。THE GROWTHの2人が出会うきっかけになったのがANDPAD社のお仕事。ANDPADとTHE GROWTHの取り組みについて、お話してきました。
株式会社ANDPAD 代表取締役
稲田 武夫
Takeo Inada
慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルートにて人事・開発・新規事業開発に従事。2012年アンドパッド(旧:オクト)設立、「現場監督や職人さんの働くを幸せにしたい」という思いで、建築・ 建設現場の施工管理アプリANDPADを開発。利用企業数18.7万社、ユーザー数47.5万人のシェアNo.1施工管理アプリに成長。全国の新築・リフォーム・商業建築などの施工現場のIT化に日々向き合っている。Forbes JAPANの「日本の起業家ランキング 2022」にて3位に選出。
https://andpad.co.jp/- INDEX
THE GROWTHの原点はANDPAD
稲田
まずは、会社設立おめでとうございます。
山代
ありがとうございます。あらためて「法人です」とはしたものの、今までとやることは変わりません。
北尾
タイミングも良いし「我々はどんな支援をしているのか」を知ってもらうために、支援先の方とあらためてお話をするコンテンツを作ろうと考えてお邪魔しました。今日が第1回で、稲田さんが初ゲストになります。
稲田
ちょっと荷が重いですが、光栄です!
山代
と言うのも、我々2人が出会ったのもANDPADの仕事だし、もっと言うと自分がメルカリ辞めて独立しようと思ったきっかけも稲田さんでもある。原点と言う意味で初回は稲田さんしかいないなと。
稲田
お2人との出会いで言うと、どのくらい経ちましたっけ?
北尾
もう約5年になると思います。渋谷の貸し会議室みたいなところで、お話をさせていただいたのを鮮明に覚えています。
稲田
そうですよね。僕もあの打ち合わせははっきりと覚えています。
最初のCMをふりかえって
山代
まず、その最初のCMの話をしましょう。僕としては、作り方から新鮮だったんです。いわゆるオリエンがあって企画プレゼンがあってお買い上げされて撮影して作るみたいな一般的なCM制作の形ではなくて、対話しながら作りあげていくというモデル。
北尾
自分は電通を辞めたあとIncubate FundというVCにいて、そこで出資先のハンズオン支援をやっていたこともあって、対話しながらいっしょに作っていくのは、自然な流れではありました。
山代
結果、あの時のやり方が、今やっている経営者との伴走モデルの原点になりました。
稲田
タイミング的には、テストでCMをトライはしていたけれど、全国に向けたデビューとしてクウォリティの高いものをしっかり作りたいと思い、実績のあるクリエイターを探していました。
山代
それで外部クリエイターとして、面識はありませんでしたがビズリーチのCMなどで実績のあった北尾さんをアサインさせてもらいました。僕は独立したてで、ANDPAD側のアドバイザーという立場でしたね。
北尾
すごく印象的だったのが、自分も独立してスタートアップの支援に舵をきったタイミングで「いろいろなスタートアップ企業といっしょにどんどん世の中をディスラプトしていくぜ!」ってモードで、稲田さんに「なぜこの事業をしているのか?」の話を聴いたら、全然そういうテンションじゃなかった。これは企画もじっくり考えなくちゃならないぞと。
稲田
結果、できあがった最初のCMは、僕は今でもいちばん好きですね。「ANDPADを使っている現場と使っていない現場はどっちが良いですか?」と言う問いをあえてお施主様にも訴えると言う企画で。
山代
いわゆるBtoBの課題解決型のアプローチってあるじゃないですか。あれはあれで分かりやすいけど、ANDPADのCMは今見ても異色ですよね。意思決定者に向けて便益を訴求します、となりがちなところに、エンドユーザー(お施主様)とか職人さんとか関係者みんなにメッセージするというあのアウトプットはユニークだと思いますね。
稲田
直接的な課題解決ではなく「良い建築をする会社が選ばれる。だからそのためにANDPADを使って欲しい」という我々の想いとちゃんと合致したアプローチで、理解してくださったんだなとすごく嬉しかったですね。
北尾
稲田さんが「我々は業界をdisruptしたいんじゃない、めちゃくちゃハードに頑張っている現場監督さんの仕事を少しでも楽にしてあげたいんだ」って話を、ものすごく熱くされていて、業界へのリスペクトを感じたんですよね。
起業家の想いを込めることの大切さ
稲田
実はあの頃、いろんな会社さんからも提案をもらっていたのですが、ほとんどがタレント提案でした。一気に認知が取れて良いなとも思ったんですが、まだ会社やサービスのキャラクターが自分の中で不安定だったので、そんな状態でタレントをキャラクターとしてしまって良いのか?と言う不安もありました。それが、出来上がったCMのトンマナが「まさに自分たちのキャラクターだ」って思えるもので。例えば、ナレーションの女性のシステマチックすぎない感じのあたたかさとか。
山代
明るさと誠実さの良いバランスが、ANDPADらしさに繋がりましたね。
北尾
そういう意味ではタレントに頼らず、ANDPAD自体のキャラクターで勝負したのは正解でしたね。
稲田
企画とは直接関係ないかも知れないけれど、会社のことだったり、競合環境の中での我々のポジショニングだったり、そういうことをしっかり議論できたのが良かったんだと思います。
山代
経営者や会社の持つ雰囲気みたいなのを、クリエイティブのトンマナに乗っけるのが北尾さんは上手ですよね。
北尾
それは営業経由でオリエンを受けて企画しても出せないものだと思っていて、やっぱり稲田さんの想いの部分などを直接話せたことが良かったですね。そういうところで自分が受け取った感覚的な要素を、例えば音楽とかナレーションとか言語化できない部分に込めています。
山代
僕としても新鮮でした。でもすごく大事なことだと感じたので、これ以来、ファウンダーの思いやそこから醸し出される社風やカルチャーみたいなものをクリエイティブのトンマナに入れ込むことは意識するようにしていますね。
事業戦略の深い理解からはじまる議論
稲田
あとは、当然、事業そのものに対する理解も、あれだけ議論を重ねているから深まってくださっていますよね。
山代
僕自身、それまではtoC向けサービスの経験が多くBtoBはちゃんとやるのははじめてでした。なので、BtoB SaaSのビジネスモデルの部分から、稲田さんに、ホワイトボードつかってゼロからみっちり教えてもらいましたね。
稲田
MRRとかCACとか、使う単語も微妙に違うみたいな話をしましたね。コスト構造含めて、ビジネス全般を理解してもらった状態の上で、マーケティングを考えてもらえたのは大きかったと思います。
山代
あれから5年経って、BtoBビジネスにもだいぶ詳しくなりましたよ。でも、まずグロース戦略の部分から議論して、それをマーケティングに落とし込んでいくというの流れは変わらずにやっています。あとは、その議論にクリエイターである北尾さんが同席してくれていると言うのも、我々の強みだと思っています。
北尾
議論を聴きながら企画の断片が浮かんだりキーフレーズをキャッチすることはもちろんですが、やりとりの様子からさっき話したような社風だったり細かいニュアンスの部分も得るものは多いですね。
CMにおけるブランディングの要素
山代
さっきおっしゃっていた「1発目のCMだから、まだ自分たちのキャラクターがわからない」は、ほんとその通りですよね。僕が今までやってきたP&Gとかメルカリはすでにキャラクターが確立され世の中に浸透している状態だった。それがまったくない状態だから、CMを見た人が「あ!?そういう会社なんだ」ってなるわけで、ブランディングの要素も兼ねていますよね。
北尾
まさにです!スタートアップの場合は、よくも悪くもCMがブランディングそのものになってしまうんです。自分はその企業のはじめてのCMをやらせていただくことが多いので、ここの部分を丁寧にキャッチアップすることはかなり意識していますね。
山代
社長の想いや企業のカルチャーを上手に載せてブランディングにすると言う意味ではやっぱりスタートアップの1発目のCMはオリエンモデルじゃうまくいかないと思うんですよね。
北尾
従業員の方の働いている様子を見せてもらったり、経営者の方と食事をしたりさせていただく中にも、発見がたくさんあります。
稲田
僕だけじゃなくて多くの起業家は初のCMには、めちゃくちゃ期待しちゃうんと思うんです。何で期待するかっていうと、もちろん効果への期待もありますが、それよりも自分の会社を初めて客観的にキャラクタライズしてもらえる機会なんですよね。これって会社のMission / Vision / Valueを作るのと同じくらいのインパクトです。
僕は特にマーケにその部分を期待しちゃう人なので、北尾さんの出してくれるアウトプットにフィットを感じました。
北尾
そう言っていただけると、うれしいですね!
稲田
CMがブランディングになっているからこそ、僕はCMを起点としてそこから連なるいろいろなマーケ施策やクロスマーケティングなど、いたるところのストーリーを考えることができるんですよね。
グロースとブランディングを両立させる
山代
ちなみに、テレビCM単体のROIはどう考えていますか?実際、数字だけを見ると短期的に合わなくなってくるフェーズもありました。投資家への説明も求められたりする中で、それでも信念を持って、グロースとブランディングの両立を考えて投資を続けてきたと思うのですが、その真意は?
稲田
ベンチマークとなる企業の過去のCMの出稿プランとかパターンとかを調べてもらったりも含めてお2人と議論しながらの意思決定でしたが、当時はシリーズB調達が終わって20億ぐらい資金を集めた後だったんですよね。そこで競合よりも圧倒的な認知を得たかったって言うのと、その時に競合と比べて「我々の方が業界の未来を一緒に考えるパートナーなんです」って業界に対して伝えたかったんです。そのために格をあげたい、だからこそブランド構築は重要なテーマだと考えていました。
北尾
経営者の視点でブランディングにおいてCMは有効ですか?
稲田
強いですよね。僕の場合は、はじめから打ち続けようと決めていました。じゃあ最低限、打ち続けるには?って考えた時に、商談獲得・リード獲得と言う直接効果のKPIと、認知拡大から複利するKPIを意識しました。営業シーンで話しやすければ営業の成約率が変わるし、既存のお客様客の利用度を上げよう思うと、職人さんが知っているかどうかでオンボーディングの質が変わるのでオンボーディング成功率とか。こういったさまざまなところに効いてくるんですよ。こういった長期的な価値は、ブランドと大きく相関している認識です。
山代
僕は稲田さんのこの考え方にかなり影響を受けていますが、やっぱりBtoBのマーケ投資は、マスマーケ単体で考えずに、施策を総動員で掛け算してセールスROIをどう上げるかっていう観点が非常に大事ですよね。セールス&マーケでこの投資をどう回収しにいくのかっていう視点が。
稲田
その通りですね。セールスとマーケティングのコストはまとめて考えるものだから、CMに合わせてキャンペーンを打つとか、さらにそこに合わせて局地戦で営業戦略が動けるかとか、CMっていう1つの武器を他のマーケ施策とどう関連づけられるかは大きいです。
山代
マーケと営業との密接な連携は1つの勝ちパターンですよね。これを稲田さん含めてやりきっているのがANDPADの強さですね。
稲田
うちのグロースの責任者と山代さんにいっしょに営業会議に出てもらって、マーケ戦略と営業戦略を合わせにいく部分をやってもらっているのは大きいですね。逆に会社をどう見られたいのかっていうクリエイティブの部分は僕と北尾さんとで議論して。この2面で出来るのは非常に良いですよね。これはお2人ならではの価値ですね。
クリエイティブに期待すること
山代
その後、事例CMとかも作りましたが、事例CMは稲田さん好きな印象もあるのですが、どうですか?
稲田
事例CM、好きですね。うちの会社はカスタマーサクセスや営業など、数百人いるチームが毎日顧客対応をしていて顧客接点量が多いです。そのプロセスにこういう動画が差し込まれて届けられることはすごく価値高いです。お客さんに説明してもらう方が当然刺さるから、事例動画は良いですね。
北尾
出演したお客さんも喜んでくれますよね。
稲田
そうそう!お客さまが新卒採用に使ってくださったりしているそうです。ANDPADアワードで表彰した会社に事例CMに出ていただいたりとか、SaaSのコミュニティ作りのサイクルの中に事例CM協力が組み込まれています。
山代
もう1つ稲田さんとのやりとりで印象的だったのが「メディアの論点はこれからだけど、クリエイティブは作りたい」っていう意思決定の話。最終的なメディア投下量については、利益もあるし、マーケ予算の変動費としての調整面的な意味合いもあり可変なのでまだ確定できないけど、クリエイティブは作ってくださいって話が何度かありました。そういう順番の意思決定は新しいし、正しいなと思いました。
稲田
結構クリエイティブに投資してくっていう観点は強いです。クリエイティブは作れるだけ作りたい方ですね。
山代
とは言え、メディアを打たないんだったらクリエイティブ作る意味ある?って話もあるじゃないですか。
北尾
これは、どういう考えの上での意思決定なんですか?
稲田
CM制作のプロセスが事業をドライブするために必要だと思ってるんですよね。特に、立ち上がったプロダクトのクリエイティブに関しては。ある種、ビジョンムービーに近い感覚かも知れません。
北尾
ビジョンムービーに近いとは、どういうことですか?
稲田
新機能などの事業開発の場合、それを作ったプロデューサーやそれを売ろうとする営業ヘッドもまだちょっと自信がなかったりすることがあります。そんな時に、CM制作のプロセスとして、これは誰の何のためのプロダクトでどんな便益があるんだっけ?って言うのを、彼らも巻き込んで突き詰めるんです。
山代
マーケチームだけがやるわけじゃなくて、そのプロダクトに関わってる人が一緒になって、追求するわけですよね?
稲田
まさにそういうことです。出来上がったプロダクトを言語化し、それがCMの映像になって、お客さんに届く。このプロセスを一緒にやってるから、営業戦略上も営業トーク上もぶれがなくなる。
さらに事例CMの場合には、そのままそのお客さんとプロダクトの責任者が会話できてさらに接点が強まるなど、クリエイティブを作るプロセスは非常に重要ですね。
山代
BtoBだと、どうしても営業は営業ってなっちゃうけど、本質的には社員全員がマーケティング視点を持てているべきですよね。
北尾
さらにCMは15秒だから、一言に絞らなきゃいけない。たくさん喋れればこんな機能やこんな機能があってと紹介できるけど、一言でそれって何を解決するんですか?って言うのは研ぎ澄ませますよね。
THE GROWTHへ今後期待すること
稲田
我々はスタートアップなので、毎年、事業フェーズが変わっていきます。事業もANDPADのプラットフォーム上でどんどん進化し、お客さんの層もどんどん拡大していく。ここまでのプロセスをお2人にいっしょに歩んできてもらえているのが、いちばんの価値かも知れません。
これからもう一度、ANDPADがどのようにマーケットから見られたいのかの部分に立ち戻らなくちゃちゃいけない時期にいるので、そこのマーケティング・ブランディングのコンセプトを一緒に作っていくって部分に期待していますというのが一番ですね。
山代
ありがとうございます。
北尾
がんばります!!
稲田
あとは、僕は単純に人でも会社でも常に進化し続けている人と一緒にやりたいです。今回の法人化もそうですが、スタートアップの世界の中で息づいて常にあたらしいチャレンジをしているお2人だから、お互いに進化し続けていける限りは一緒にやっていきたいって思ってます。