Interview04
ともに歩む、エアークローゼットの成長支援
THE GROWTHの「支援先とあらためてお話」。エアークローゼットの成長を支え続ける取り組みについて、株式会社エアークローゼット事業責任者の石川さんに話を伺いました。テレビCMの導入や上場までの道のり、そして現在の企業戦略まで、広く深く掘り下げてきました。
株式会社エアークローゼット
石川 桂太
Keita Ishikawa
慶應義塾大学卒業、公認会計士試験合格後に株式会社野村総合研究所インド法人に現地採用で新卒入社し、事業コンサルやM&A業務に従事。2015年創業初年度に株式会社エアークローゼットへ入社。事業計画策定・資金調達等に従事した後、新規事業開発・マーケティングを統括。現在は、airCloset事業全体を統括。
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出会いはICC Co-Creation Nightで
山代:
今日は、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。
石川(dex):
こちらこそありがとうございます。実は昨夜からずっと緊張していました(笑)
北尾:
絶対そんなことないでしょう(笑)。いつもの感じで『dex』と呼んでいいですか?
石川(dex):
もちろんです。会社でも普段からニックネームで呼ばれていますので、是非。
山代:
確か、2021年のICCが最初の出会いですよね?
石川(dex):
はい、あの時はCo-Creation Nightが出来たばかりだったんですかね。マーケティングの部屋があるからと興味本位で参加してみたら、すごいメンバーが揃っていて驚きました。
北尾:
あの時は、マス広告の相談をしに参加したんですか?
石川(dex):
もちろんマス広告も検討していましたが、その時は単純にマーケティングについてあたらしい学びがあればと思って参加しました。そこで山代さんに悩み相談をしていたら「スタートアップでCM作るんだったら北尾さんの話を聞いた方が良い」と北尾さんを紹介いただきました。
テレビCMの導入に向けての不安
北尾:
その後、dexがオフィスまで来てくれたのを覚えています。
石川(dex):
「テレビCMをやりたいと思っていますが、まったくの手探りです。どうしたら良いですか?」と事情を含めて説明に伺いました。その後、CEOの天沼とも食事に行っていただきましたね。弊社の場合、代表がクリエイティブ・ディレクターとしての権限も持っているので、信頼関係を築いておいてもらうために。
山代:
北尾さんも、仕事を選ぶ際に社長の人柄を大切にされていますしね。
石川(dex):
他の代理店さんからも話は聞いていたのですが、会話をしていく中で、CMを目的とするのではなく、事業成長の手段としてCMをやっていく伴走者として、お二人と一緒に進めたいと思いました。
山代:
そもそも、どういう経緯でCMを検討し始めたんですか?
石川(dex):
それまで我々がやっていたデジタルマーケティングだけでは成長に限界があると感じ、次のステップに進む必要があると考えたのがきっかけです。でも、本当にデジタルしかやったことがないので、不安しかありませんでした。
北尾:
どんな部分が不安でしたか?
石川(dex):
全部です(笑)。マス広告未経験なので、まず何から始めたら良いのかが分からない。
北尾:
世の中的には、経験者の方が珍しいですよね。
石川(dex):
中でも不安だったのは、費用が莫大になることが予想される中で、どうやってその効果を計測すれば良いのかが分からなかったことです。これまでやってきたデジタル広告はCPA(顧客獲得コスト)やROI(投資収益率)を瞬時に確認できますが、直接的なデータが見えづらいテレビCMではどうしたら良いのだろうかと。
考えなくてはいけない論点はいくつもあるのに、何から手をつけたら良いのか分からない。そこで行き着いたのが、「誰と一緒にやるかを決めよう」という方法でした。そこにこだわっていろいろな方にお話を伺いました。
北尾:
そういう経緯だったのですね。選んでいただき、ありがとうございました。
石川(dex):
特に北尾さんは、クリエイターの中でも異色というか、「経営としての成果を出したい」という意思が明確に強くありますよね。我々のフェーズでは、「好感度が上がりました」とか「広告賞を取りました」というよりも、一緒になって数字を追って売上に貢献してほしい。いろいろなクリエイティブ・ディレクターの方ともお話しさせていただきましたが、ここが北尾さんにお願いした決定的な理由ですね。
山代:
その文脈で言うと、エアクロはマス広告に対して最も愚直にデジタルマーケティングと同様のパフォーマンスを求めていますね。スタートアップなので、大前提として運用型でテレビCMにもパフォーマンスやコンバージョン成果を求めていく。他社も同様ですが、デジタルに対して6掛けくらいの効果で継続することが多い中、愚直に合うか合わないかを追い求めていますよね。
石川(dex):
まず、普段のデジタルの部分でも徹底的に合う合わないを追求する文化があるので、その影響はありますね。あとは、我々がCMをコロナ禍にやったことも関係しているのではないでしょうか?コロナ中は、すごく良くなったり急に悪くなったり、ジェットコースターのように数字が揺れる。全く波がないタイミングでどんと打っても無風になりかねないし、上昇する機運に乗れば大きく跳ねるかもしれない。なので、ちゃんと戦うための武器を揃えておきたいという考えですかね。あとは、そもそも1回目を福岡でテストで流した瞬間に結構コンバージョンが出たじゃないですか。
山代:
出ましたねぇ!
石川(dex):
初日から明確にコンバージョンが確認できましたよね。素晴らしいクリエイティブとバイイングの合わせ技の成果ですが、チームが湧きましたよね。「いける!」と直感しました。社内では、コンバージョンが出ているならリスクヘッジしながらやれるよね。投資できる範囲の中で続けることで認知を上げていけるなとなりました。
福岡でのCMの成功、そして関西へ
山代:
初日から福岡で明確にコンバージョンが出たので、「すぐに関西でやろう!」となりました。あの意思決定は本当にすごかったですね。スタートアップ的なスピード感がありました。金曜にCMをスタートし、金土日の反応を見て月曜日には関西のメディアのバイイングをかけ、その週の金曜日には関西でもCMが流れているという速さでした。
石川(dex):
スタートアップはスピードが命ですから、成功を確認したらすぐ次の手を打つのは鉄則です。ただ、検証の1週間後にはもう関西で流せたのは驚きでしたね。
山代:
大きな投資であっても、シナリオプランニングとコンバージョンを追いかける体制さえ整っていれば、デジタルのような感覚で投資できる。dexの意思決定のスピードには感心しましたね。僕の成功体験の中でも特に印象に残っています。
石川(dex):
いやいや。「やるんだったら、今、決めてください!」って山代さんから電話をもらって、決断を迫られた時は震えましたよ。「今、即決するの?そんなことある!?」って(笑)。
北尾:
でも、それを即決できるdexもすごいですし、ちゃんとその権限を移譲している天沼さんも素晴らしいですね。
バリューポジションを見直しメッセージをシンプルに
山代:
話は戻りますが、クリエイティブ制作に向けて、我々の取り組みでは「バリューポジションの変更」という大きな議論がありましたね。
石川(dex):
それまでは「ファッションレンタル・サブスク」とうたっていたのですが、本当にそれで良いのか?と。我々の現場の当事者であるスタイリストの方々にインタビューをしていただき、議論しましたね。
北尾:
最終的には、バリューポジションを「プロが選ぶパーソナルスタイリング」とし、クリエイティブのタグラインを「プロが選ぶ、コーデが届く」としました。
山代:
まず、この出発点から議論できたのは、とても良かったと思っています。
石川(dex):
今日、この取材があるということで、二人との取り組みで何がいちばん大きかったかな?と考えたのですが、この「プロが選ぶ、コーデが届く」というタグラインは今でもフル稼働で使っています。本当に大きな資産をいただいたと思っています。
それから、これを決めるプロセスの中で、山代さんに「15秒で届けなくちゃいけないんだから、とにかくシャープに」と何度も言われました。ファッションはもちろん、レンタルもスタイリングもサブスクも全部入れる気だったのですが、北尾さんに「そんなに入りません」と言われて、「えっ!入らないの!?」と驚きました(笑)。
山代:
入れたくなる気持ちは分かりますよね。
石川(dex):
気持ちとしては全部入れたいし、そもそも我々はファッションレンタルとして始まった事業なのに、そこから考え直すの?と。でも、お客さまにとっての本当の価値ってなんだろう?という議論を重ね、「スタイリストが自分のために選んでくれる」ことがメッセージだという結論に至りました。
北尾:
CMには絵と音があるので、ビジュアルで伝えられることはあえて言葉にする必要がないというのもありますね。
山代:
それはコンセプトテストでは測れない部分ですよね。文字ベースでのテストでは、書いていない要素は当然スコアが上がらない。
石川(dex):
「プロが選ぶ、コーデが届く」は、コンセプトテストではあまり良いスコアは取れなかったかもしれませんね。
山代:
でも、CMでは見事に刺さった。
石川(dex):
実際に完成したCMを見ると、たった15秒の映像なのに、「はい!そういうことなんです、エアクロって」と、すべてを見事に言い切れている。
山代:
マーケティング側の人間として、あのシンプルにそぎ落としていくプロセスは正直、僕には絶対できないし、北尾さんの凄さだと思っています。
石川(dex):
確かに、あそこまでの取捨選択は普通できないですね。
山代:
THE GROWTHとして、我々は伴走型の支援を行っています。代理店型の受発注関係だと、どうしても発注者であるクライアント側のパワーが強くなりがちです。このバランスでは、クリエイターがクライアントの言うことをすべて実現しようとしてしまう。「あれもこれも入れてほしい」と言えば、可能な限り詰め込もうとするでしょう。ただ、我々は同じ1つのチームとして動いているからこそ、北尾さんも対等に強い想いを伝え、削るべきものを削る作業ができる。
北尾:
それは確かにありますね。1つ1つのクライアントのオーダーに応えることよりも、一緒に成功することの方が大事です。勝つための主張は、しっかりさせてもらいます。
石川(dex):
そういう意味では、CM撮影の時にどの服を着るかでも、少し揉めましたよね。
北尾:
少しありましたね。エアクロ側には当然、プロとして業務を行っているスタイリストさんがいて、流行やユーザー人気を意識したスタイリングを考えていました。一方で、クリエイティブチームにはテレビCMに慣れたスタイリストと監督がいて、テレビでの映え方やCM全体の華やかさを重視したスタイリングを提案していました。最終的にはエアクロ側のスタイリストさんの意見を尊重して進めることにしましたが、撮影現場に来ていた幸野さんが敏感に違和感を察知して…
石川(dex):
はい。幸野から電話がかかってきましたね。「やっぱり監督さんのおすすめにすべて差し替えた方が良いと思います」と。
北尾:
英断でしたねえ。確かに最初のスタイリングでは全体の色が地味だと感じていたので、撮影を一時中断して差し替えてよかったです。普段の日常には使わないような、赤や黄色の強い色を取り入れてもらいました。
石川(dex):
撮影が2日あったのが幸いでしたね。倉庫から取り寄せる衣装もあり、かなり奔走しましたが…。
DEAD OR GROWTH !?
山代:
ひととおりCMのプロジェクトが終わった後は、LPやデジタルなどのタッチポイントでのCV(コンバージョン)の改善や、LTV(顧客生涯価値)をどう上げるかなどを議論したり、上場後にはもっと大きな会社の描く戦略についての議論も行っていますよね。
石川(dex):
本当の意味で事業戦略について相談できる人って、社内にも社外にもほとんどいないので、お二人との時間は自分にとっても本当に貴重な機会です。
北尾:
毎回、アジェンダをきっちり組んで、完璧な資料を作ってきますよね。
石川(dex):
いかに多くのインプットをお二人から引き出せるかと考えて、ついつい相談内容を詰め込みすぎてしまうんです(笑)。自分としては、いつもハイボールをズバンと投げてくれるお二人がいることで、自分自身やチームが成長していると感じています。
山代:
そんなにハイボールを投げてるかな?
石川(dex):
「dexは測れる物にしか投資できない」って山代さんに言われた時は、めちゃくちゃ悔しかったです。でも、その悔しさが次の打合せまでに「見返してやるぞ!」という原動力になって、自分の思考もぐっと進むんです。ありがたいですよ。
山代:
我々はスタートアップの社長と仕事をすることが多いのですが、エアクロの場合は事業責任者であるdexがものすごいオーナーシップを持っていますよね。背負っている責任の重みが違います。
石川(dex):
それは、天沼が相当、我慢して任せてくれているんだと思います。エアークローゼットの組織文化的にも、「やるならやれ」という任せる文化がありますし、自分自身も創業1年目からこの会社にいるので、ほぼオーナーくらいの自覚を持っていますよ。ただ、急に入ってきたマーケティング責任者として結果を出せという状況ではなく、エアークローゼットの背景を知った上で、どうやってこの事業を世の中の当たり前にしていくかだけを真剣に考えています。
北尾:
最近では、ブランディングやサービスそのもののクリエイティブの部分にも関わらせてもらっています。
石川(dex):
そうですね。LPのメインに使うキービジュアルのディレクションや撮影を北尾さんのチームにお願いしています。これまでは、いろいろなものをA/Bテストにかけて良いものを残すという考え方だったので、あまりクリエイティブにこだわりきれていなかったかもしれません。でも、ちゃんとクリエイティブにこだわって予算をかければ、こんなに大きくジャンプするんだということに気付かされました。
北尾:
それはうれしいですね。
石川(dex):
toCのサービス、特にファッションのサービスだからこそクリエイティブが重要なのですが、スタートアップとして新しいサービスを展開する時は、どうしても左脳的にばかり考えてしまう。でも、最近は言葉にしなくてもビジュアルで表現できることに気付きましたし、クリエイティブに投資する意味がやっと分かってきました。
北尾:
初期の頃から自分がずっと気になっていたのは、「どうしてLPでモデルさんの顔を出さないのですか?」ということでした。モデルさんの顔や表情が見える方が、商品がより良いものに見えるのではと思っていました。でも、「それも試したけれど、結局お洋服を畳んで床に並べた方がいちばん効果が出る」という話でした。数字にはかなわないので「そういうものか」と納得しましたが、最近になってようやくモデルさんの顔が見えるクリエイティブで結果が出せるようになったので、とても嬉しいです。
山代:
サービスの浸透度や変遷の影響もあると思いますが、クリエイティブの質が持つ影響も無視できませんよね。単純に比較できるものではないかもしれません。少し話はそれますが、dexのキャリアはスタートアップとして理想的なものだなと思います。創業時からいらっしゃることに加え、もともと会計士のバックグラウンドがあり、入社後は事業の拡大に合わせて社長室という名の下、職責をどんどん広げていった。この7年、8年のキャリアは本当にお手本のような成長だと思います。
石川(dex):
リソースも限られる中で、今1番やるべきことは何かを考えて、仕事してきただけなんですけどね
山代:
「これをやって、これもできるから次はこうして」と、任されたことを巻き取り続けているうちに、最終的にはグロース全体を見られるようになった。このプロセスは、ぜひ若手のスタートアップ関係者に参考にしてほしいですね。マーケティングだけで事業が動くわけではないですから。
石川(dex):
マーケターになりたい、マーケターを育てたいと思ったことは一度もありません。事業家・経営者として事業を全方位的に改善できる人材を増やしていきたいと思っています。
山代:
「事業責任者になりたい」と言う人は多いですが、そんな簡単にはなれないですよね。CS(顧客サポート)を持ってみたり、ファイナンスを見たり、少しずつ業務範囲を広げていった結果として、最終的に背負えるようになるという流れですよね。
石川(dex):
まさにそうですね。やりながら少しずつ範囲を広げていったら、気がつけば全部を持っていました。
山代:
素晴らしいですね。では、今後、我々に期待することは?やはりハイボールを投げ続けることですかね?
石川(dex):
お願いします(笑)。今日のお話では褒めていただくことが多かったのですが、実際には、自分たちだけでやっていると、現場の重力に引っ張られたり、事業の成長とともに時間軸がどんどん短くなり、視野も狭くなりがちなんです。お二人には、そういった状況にはない広い世界を見せていただければと思っています。
北尾:
良い話ですね。
石川(dex):
それと、我々のチームでは「DEAD OR GROWTH」というスローガンを掲げています。これを失敗したら会社がなくなるかもしれない、そんな状況を上場前には何度も経験してきました。上場後もそのぐらいの必死さでやっていきたいと考えていますので、これからもぜひ、ハイボールを投げ続けてほしいです。
山代:
「DEAD OR GROWTH」、良いですね!我々もチームの一員として、全力でGROWTHに貢献していきます!