上場後も続く、ベースフードの成長支援

Interview03

上場後も続く、ベースフードの成長支援

THE GROWTHの「支援先とあらためてお話」。第3回のゲストはベースフード株式会社CEOの橋本さんとCMOの齋藤さん。お2人がそろってのお話しは割と珍しいのではないでしょうか?ベースフードとTHE GROWTHの取り組みについて、過去の取り組みをふり返りながら、楽しくお話しをしてきました。

ベースフード株式会社 CEO

橋本 舜

Shun Hashimoto

東京大学教養学部卒。DeNAに新卒入社し、新規事業を担当。2016年6月に独立し、ベースフードを創業。「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに。」をミッションに、自身で100回以上の試作をして、世界初の完全栄養の主食 BASE PASTA を作り上げる。ICC 2018 FUKUOKA スタートアップ・カタパルト準優勝。D2C/FoodTech企業としてメディア掲載多数。

https://basefood.co.jp/

ベースフード 株式会社 CMO

齋藤 竜太

Ryuta Saito

一橋大学卒。ユニリーバ・ジャパンに入社しPOSデータ分析に基づくリテール向けのマーケティング、米Walmart社に出向しヘアケアのカテゴリー戦略立案や各国のビジネス開発を担当。その後リノべる株式会社にて、出店戦略やCRM構築、MA導入に従事。17年5月より現職。創業メンバーとして、webサイト運営から広告宣伝、CRM、PR、外部とのアライアンスなど、事業成長のためのマーケティング活動を統括。

https://basefood.co.jp/

出会いのきっかけはICC

齋藤:

いきなりですが、新商品の「BASE BREAD こしあん」です。お土産にどうぞ。

北尾:

やった!食べたかったんですよ。

山代:

ありがとうございます。ところで、橋本さんと齋藤さんのお2人でメディアに出られること、珍しくないですか?

橋本:

あまりないと思いますね。

北尾:

贅沢な機会ですね!ベースフードさんとの関わりは、最初は自分が一人で支援させていただいていました。

齋藤:

5年前ですね。2019年の10月頃からだったかと思います。

北尾:

きっかけはスタートアップイベントのICCで株式会社エアロネクストの田路さんから、橋本さんをご紹介いただいたことでしたね。

橋本:

当時はまだ、デジタルマーケしかやっていなかったということもあり、BASE FOODをこれからどう見せていけば良いのかを相談させていただきました。

齋藤:

まだ「BASE BREAD チョコレート」が出る前で、当時発売していた「BASE BREAD プレーン」も冷凍品から常温品に切り替わった直後くらいのタイミングだったかなと思いますが、誰にどのように売っていくのかもきちんと定まっていなかったので、その辺りの議論をさせていただきましたね。

北尾:

このタイミングから議論に参加させてもらうのは結構レアなのですよ。

山代:

確かに珍しいパターンですね。特に北尾さんの仕事的には、PMFが終わっていざマス広告をというタイミングが多いですよね。

北尾:

初期からいっしょに試行錯誤してきた分、理解度はかなり高まっていて、それが今のCMの企画などにものすごく生きてる感じはあります。愛着も深くなっているし。

山代:

その頃のことは僕は知らないのですが、橋本さんも議論に入っていたんですか?

橋本:

毎回入っていました。僕と齋藤とクリエイティブ担当と3人で。議論は拡散しがちでしたが、コンサル的にいろいろ相談にのってもらいました。

山代:

僕が入ったのはその2年後くらいですかね。ICCで北尾さんに橋本さんを紹介いただいて、会場のロビーで1時間ぐらい今後の展望とかを伺ったりテレビCMの話をしました。

齋藤CMOへの完璧なデリゲーション

北尾:

山代さんも入って「さぁCMをやりましょう」となり、企画提案した時には橋本さんもいたけど、1本目のCMを納品した後からは完全に齋藤さんに任せられるようになっていましたよね。

橋本:

テレビCMは初回だけでしたね。議論の内容がマーケティングの話に意向したので、そこからは任せました。

山代:

そこなんですよ!我々もいろいろな会社を見ていますが、ここまで明確にデリゲーションされているケースは珍しい。テレビCMって金額も大きいし、クリエイティブの良し悪しには主観的な判断が必要になる部分も多い。だからデリゲーションするのってむずかしいと思います。

この部分って、たくさんの企業が悩まれているポイントなのですが、この頃2人の関係性はどのように役割分担されていたのですか?CMOに任せていると言いながら、結局、社長がOKしないと決まらず、話が進まないので、社長も打合せに出てきてくださいよというケースはよくあります。

橋本:

年間の広告宣伝費の額などの数字はもちろん見ていますよ。そのアロケーションがテレビCMなのかデジマなのかは、数字を見ながら決めてくれたら良いし、それは社内でマーケとかサプライチェーンに強い齋藤に任せるのが良いと思っています。社内に強い人がいるから任せるし、開発の部分など弱い部分があればそこは僕が見る。それに尽きます。

齋藤:

会社としてはじめてのCMだったので、どうデビューするか?何をいちばん伝えたいか?みたいな部分の判断には橋本が必要でしたが、1本目がうまくいったので、そのあとは顧客ベースの話にシフトしていったので、僕が引き取りました。

山代:

お2人の間でのマネジメントは1on1をベースにやっているのですか?

橋本:

いえ、僕たち1on1もやっていないのですよ。

山代:

本当ですか!?それは結構なサプライズですね。役割分担が完璧にできているということは、橋本さんは違う仕事に集中できる。会社にとって非常に良いことだと思うのですが、これが普通できないんですよ。CMOでも本当に大事なことは決められないケースも割と多いですが、齋藤さんはほとんどその場で自分で決める。これはすごいなといつも思っています。

齋藤:

まず、先ほど橋本も言ったように、得意領域はそれぞれ違う。会社の根本のメッセージの部分や、未来の商品開発は橋本の得意分野。僕は、現状のお客さんを見ながら戦略を考えて実行するタイプ。この戦略と、組織全体のありたい姿にズレさえなければ、あとは顧客ベースのコミュニケーションによる成長速度がアラインしていれば、別に細かくすり合わせをする必要もないのかなという感じですね。

橋本:

ここのパワーバランスは重要です。顧客のためにと言っても、現在の顧客のためなのか未来の顧客のためなのかがある。全部まとめて考えるよりも、現在の顧客のことを考える人、近い未来の顧客のことを考える人と、さらにその先を考える人がそれぞれ存在していることにチームでやる意味があると思います。なので、線引きが必要です。だから僕は齋藤の領域に入っていきません。

はじめてのテレビCM

山代:

最初のCMの制作過程で記憶に残っていることがあります。BASE FOODにはパッケージなどのクリエイティブディレクションを初期の頃からされているデザイナーもいらっしゃる中で、クリエイティブ制作をどうやって進めていこうかという議論になった際、橋本さんはCMに関しては北尾さんがプロなんだからすべて北尾さんのディレクションでいこう!と割と強めにおっしゃっていました。社内のクリエイターの方にも、歴史もあるし、自分たちがつくってきたという自負もあるから、うまく折り合いつけて着地させるのは難しい側面もあったかと思うのですが。

橋本:

例えば、会社と会社とが関係する時に、どういうウィンウィン関係をつくるかを設計するのは僕の担当だと思っています。そこの仕切りは自分の役割なので、お互いがウィンウィンで気持ちよく進められるように言いました。

北尾:

おかげさまでグラフィック用の素材撮影ではデザイナーさんに指示を仰いだりと、よい役割分担でスムーズにできました。船頭多くしてじゃないけど、ここの仕切りで失敗するケースもたまにあるので、感謝です。

山代:

CM施策においては、福岡でのコンビニとの配架連動のテレビCM投資で、ユニリーバ出身の齋藤さんらしさが出ましたね。いわゆるD2Cプレイヤーとは異なる戦い方ができました。

齋藤:

P&G出身の山代さんとは、お互いデジタルだけじゃなくてオフラインでの経験があるので、戦略部分ですっと分かり合えました。特に私の場合は、キャリアの最初がコンビニ営業の担当だったので、バイヤーさんが何を見てくるかは刷り込まれており、それを見据えて行動できました。

山代:

それは強みですよね。

齋藤:

それとBASE FOODが初期にドラッグストアに展開していた頃から、いかに違和感を出すかを大事にしていました。我々はD2Cブランドですよと堂々と見せることで、コンビニなどの既存の小売の業界の枠組みからちょっと外れることができて、結果、バイヤーさんに対して、普通じゃないことができるんじゃないか?ホームランが狙えるんじゃないか?という期待感を作っていく。これはスタートアップ x 小売店の良い勝ちパターンになり得ますよ。

山代:

実際にコンビニのPOSも結構、跳ねましたよね。

齋藤:

どちらかというと自社ECの獲得目的でテレビCMをやっていますが、POSも10パーセントぐらい跳ねたので、商談時に有効に使うことができました。

橋本:

会社視点だと、あのタイミングは上場前に成長の継続性を示す必要性が求められていて、デジタルでの定期購買だけだと、CPA上がり過ぎちゃうと困るからどうしようかと悩んでいた時期で、そこに小売とテレビCMとデジタルとを組み合わせれば良いよねという戦略を、あのタイミングで描けたのはすごいことだと思いますね。

北尾:

あらためて、今朝、CM見返してきましたが、良い感じのデビュー感があるCMでしたよね。ナレーションで説明しきる形じゃなくて、Sunday Monday♪と歌が流れて。

齋藤:

あそこまで振り切るという発想は、北尾さんの提案がなかったら絶対になかったのでありがたかったです。

山代:

もう少し、ロジカルにいってしまいがちではありますよね。

齋藤:

それもあるのですが、当時は、N1インタビューなどを参照して、購買層のペルソナとか我々が描きたい世界観などは言語化されていましたが、まだビジュアル化されていませんでした。それが、あのCMで初めてBASE FOODのライフスタイルってこういうことですというのがビジュアル化されたんですよね。社員や関係者にも、言葉だけでは伝わり切らなかったものが、なるほどねと瞬時に腹落ちする形になったと思います。その意味ではブランドにおける価値がすごく大きかったです。

山代:

大きいですね。朝食ユーザーがLTVが高いから朝食の習慣化を訴求していきましょうと戦略はロジカルに作れたけれど、そのアウトプットがあれと言うのは、クリエイティブのジャンプというやつを見ましたね。

橋本:

デジタル上では筋トレとかダイエット訴求が勝ちパターンだったわけですが、その当時の会社としてはとにかく広がりが欲しかったんです。ニッチな方向に行ってしまってはダメだと。そこをどう超えて表現していくかという課題に見事に応えてくださいましたね。

CMOとしての齋藤さんのすごさ

山代:

他にも、齋藤さんがすごいのは、全部自分でエリア単位・CPA・リフトなどをローデータからプレポスの計算していますよね。

北尾:

自分も、細かい数字の部分の専門家ではないけれど、明らかにだれよりも齋藤さんが数字を把握しているなってのは瞬時に分かりましたね。

橋本:

CMOもいろいろなタイプの人がいると思うのですが、齋藤は派手なことより、地道にコツコツやることを好む真面目なタイプ。だから安心して任せられますね。

齋藤:

今でも毎日、GA(Google Analytics)を見ています。もちろんダッシュボードも作りますが、きれいな形になった瞬間に本当にこれ計算合ってるのかな?と不安になってしまうんです。だから、基本は自分でローデータからやるようにしています。

橋本:

一緒に出張行った時などにちらっとパソコン画面を覗くと、ものすごく細かい数字を見ています。経営会議で話していても、現場に聞かないと分からないとかは絶対ないですね。

山代:

すばらしいと思います。自分がマーケティングではなくグロースと言っているのは、ファジーな部分をなるべく排除して、いちばん嘘つかない数字でやりたいからという部分があるので同意です。ちなみにテレビCMを、CPAで判断するのは過酷できついレースですよ。

齋藤:

そうですよね。ブランドリフトなども調査はしますが、そこへの投資は今の規模だとなかなかしづらい。自分のミッションは確実に成長させることだから、ちゃんとした数字からROIを見ていかないとならない感覚です。

山代:

あとはこの数字のミーティングに北尾さんが同席し続けてましたよね。クリエイティブからしたら、自分が作ったものが数字で評価される残酷さがある。普通の広告のCDってそんなことはない。世の中の評判みたいなものが、なんだかんだクリエイティブの評価になる。でも、我々の場合はCPAの良し悪しが数字で即出てくる。

橋本:

スタートアップのCMはそうありたいですよね。巨匠のアーティストの作品がいくらに値付けされたみたいな話じゃなくて。お金に余裕がある会社が期末にやるCMと、スタートアップのCMでは訳が違いますね。

齋藤:

少し話はかわりますが、テレビCMを検証していく中で、変数を発見したという事例もあります。例えば我々はそれまで、季節指数を重視していませんでした。Web経由で欲しい人に対して売っていたので季節関係なく売れていましたが、マス広告で一定規模を越えたライトな人が顧客となると、売れ行きはパン自体の消費量とも比例し、大きくパンで見た時の消費量には季節性があるということが分かりました。この発見以降は、需要予測にも季節指数を入れるようにしています。

経営者としてCMのイメージを裏切れない

山代:

今(2024年8月時点)流している「おきかえ篇」のCMは、ものすごくがCPAが良いですよね。最近では、このCMのCPAがデジマよりもよかったりすることすらある。

齋藤:

すごいことですよね。このCMは、デジタルでうまくいったコミュニケーションのパターンを、北尾さんにエッセンスは残しつつもマス向けのコミュニケーションに変換していただきました。キャッチーな感じでダイエットニーズを広く取れたのが成功要因だと考えています。

北尾:

ダイエットの広告って昔から大量にあるので、そこに埋もれたらダメだと思って企画しました。なので、まったく痩せると言ってないし、痩せそうな感じすらも出していない。感覚よりも、理論で勝負しました。毎日一食をおきかえるだけですよと。

ただ、自分が言っておきたいのは、このCMをいちばん最初にやっていればそれでよかったと言うわけではありません。最初のCMやその次のCMを放映した上で、一定BASE FOODのブランドや認知がテレビの前のお茶の間の中に出来上がって、そのBASE FOODのCMとして見てくれるから機能したと思っています。

橋本:

ちなみにおもしろいのが、経営者にもCMのフィードバックがあるんです。つまり、こういうテレビCMを放映していると、世の中からはこういう会社だと思われる。ということは、僕もこういう会社の社長として振る舞わなくてはならない。これがぐるぐると循環していくんです。

社内と社外のイメージがズレてくると、きっと窮屈になっていきます。その中で、世の中のお客さまは僕らがどんな人間でどんな会社なのかは知らずにテレビでCMを見て、僕らのイメージを作っている。こっちが主ですよね。これを裏切っちゃいけないぞって思っています。

北尾:

自分は、それが絶対に起きると信じていたので、極力CMのトーン&マナーをその企業さんが持っている空気感に合わせたりとか、自分が普段経営者の方と接していて感じる感覚に近いものをCMの味付けの部分にこめたりとかをしています。それがリアルな実体験の話として聞けてすごくうれしいです!

山代:

ところで、お2人は上場前後で何か変化がありましたか?

橋本:

上場した直後はあまり変わらないなと感じていたのですが、今は結構変わったと感じています。上場自体がというよりは、そのタイミングには卒業式というか入学式というかエポックメイキングな意味合いがありますね。また、上場に伴って、世の中の認識も変わってきます。ステージやフェーズが変わった感じは明らかにあるので、それに合わせて僕たちは適切なスタンスを取らなきゃいけないと思っています。

山代:

齋藤さんはいかがですか。事業責任者でもありCMOでもある立場で、変化はありましたか?

齋藤:

まず会社で言うと、だいぶ組織化されてきました。これは上場だけでなく企業のフェーズとして人数が増えてきて、それぞれのチームがチームとして動くようになった。なので、僕とか橋本がやるぞ!と言って一気に決めるのではなく、チームから生まれるアウトプットとして進めていくことを重視するようになってきていますね。

事業としては定着し始めた感覚があります。コンビニに置かれるようになって3年、4年と経過していますが、例えばPRなども普通にしているだけでは出なくなってきてますし、お客さんからも見慣れたものになってきている。以前は、目新しさで飛びついてくれていた部分もあったかと思いますが、顧客にとってのバリューをもっと伝えていかなければならないフェーズになってきました。認知とニューネスのバランスが大事ですね。

山代:

一方でそれはマスブランドになった証しとも言えますね。

齋藤:

マスブランドとしてみたら会社の規模はまだまだ小さい。そうなると、他のマスブランドと同じ戦い方をしても資本力で負けてしまうので、そこを工夫で突破する方法を常に考えています。

橋本:

このぐらいの規模で満足するか、しないかですよね。

山代:

全然してないですよね?

橋本:

当然です。もちろん我々と同じくらいの規模感で世の中に受け入れられ続けている素晴らしいブランドもいっぱいありますが、僕たちが目指しているのはこの程度ではありません。ただ、他方、リスクを取り過ぎると、このポジションすら失ってしまう可能性もある。

売り上げ100億超のブランドをちゃんと生かして守りながら、売り上げ1000億に対してしっかりと進んでいくことが大事だなと思っています。守るものも当然あるけれど、目指してるものもある。スタートアップでもあるけど、それなりの中堅企業にもなっている。このバランスですね。リスクマネジメントをしっかりしながら、積極的にグロースしていきたいです。これからもご支援、よろしくお願いします。